経営チームの必要性

トップマネジメントの仕事は、複数ありかつ多元的である。
主なものをあげると、次のとおりである。

  1. 使命を決める :組織としてのミッションを考える役割がある。
  2. 価値観をつくる:組織全体の規範を定める役割がある。
  3. 組織をつくる :組織を作り上げ、それを維持する役割がある。
  4. 対外関係作り :顧客、取引先、金融機関、政府機関など、渉外の役割がある。
  5. 外との関わり :公的行事や夕食会への出席など、儀礼的な役割がある。
  6. 矢面に立つ  :重大な危機に際しては自ら出動するという役割がある。

特に、1項の役割から、目標の設定、戦略と計画の作成、明日のための意思決定という役割が派生する。

 

このように、トップメネジメントには、思考し決定する資質、行動する資質、親しみやすさや人柄など人間的な資質、組織を代表するあるいは矢表に立つ資質が求められる。そして、「経営の最後は決断である」ということ。経営には唯一の解答はない。その中で、如何にして最高度の決断をするかが問われる。

 

これらのことから、「トップマネジメントは、一般人の能力を超える」とドラッカーはいう。求められる多様な資質、そして社運を左右する様々な意思決定…トップマネジメントは、常に社長一人の能力を超えている。

 

不況や時代の変遷が来て、80点~90点の決断力を要求された段階で、大体会社が衰退していくのが世の常である。ゆえに、常に最高の決断は何か…正しい決断の探求をしなければならない。ところがドラッカーは、最初から個人の能力を超えるものだといっている。

 

では、どうすべきか…一つは経営担当者の育成である。さらに経営チームを作ることである。経営担当者と経営チームをどう作り、機能させるか、更には後継者の育成をどうするか、これがドラッカーのトップマネジメントの90%以上を占めるテーマだった。

 

ここでドラッカーはこう言っている。

トップマネジメントの仕事とは、一人の仕事ではなく、チームによる仕事である。トップマネジメントの役割が要求するさまざまな体質を、一人で併せ持つことはほとんど不可能である。しかも、一人ではこなしきれない量がある。ごく小さな企業は別として、トップマネジメントの仕事には、少なくとも専任一人と、いくつかの分野でリーダー役をつとめる者一人か二人を必要とする。(「マネジメント」より)

 

経営チームを構築し、トップマネジメントの仕事の一つをチームのメンバーに任せることによるメリットは4つある。

  1. 社長一人の能力の限界を突破できる。
  2. より良い意思決定ができる。
  3. 独裁の危機を防ぐことができる。
  4. 後継者の育成ができる。

草創期においては、企業は一人の人間の延長である。しかし、一人のトップマネジメントからトップマネジメント・チームへの移行がなければ、企業の成功どころか存続もできない。(「現代の経営」)

 

フォードの失敗

ヘンリー・フォードは、若いころから、所有権は誰とも共有せず、マネジメントも共有するつもりはなかった。フォードが必要としていたのは技術者だけであった。そして、マネジメントについては、あくまでもオーナーたる自分だけの仕事とした。

 

フォード社は、業績をあげ成長していた時代にはジェイムズ・カインズとチームを組んでいたが、カインズが去った後、ヘンリー・フォードは完全なワンマンとなった。10億ドル規模の巨大企業になっても経営チームを作らなかった。経営担当者抜きにマネジメントを行っていた。

 

わずか十五年の間に起こった成功から崩壊に至るフォード物語ほど劇的なものはない。1920年代の初め、フォード社の市場シェアは三分の二だった。しかしその十五年後の市場シェアは五分の一にまで落ちていた。

 

ヘンリー・フォードの独断的なワンマン経営と秘密警察的な人事管理によってフォード社は衰退した。彼は、経営担当者を造らなかった。経営チームを作らなかった。

 

その後、社長が交代し、新任社長は先代のやり方を根本的に変え、経営チームでマネジメントを行った。この二代目の社長は事業の立て直しに取り組み、その再建に成功し、フォード社は経営危機から脱した。、

経営チームによる限界突破

トップの能力の限界が会社の限界である。

 

著名な企業は、創業時または操業後の早い段階でパートナーと組み、経営チームで限界突破し大企業へと飛躍的な発展を遂げている。

 

日本での有名どころは以下。

企業名 コメント
松下電器 高橋荒太郎は、松下幸之助から経営改革のすべてを任された。
ソニー 井深大は主に開発系を担当し、盛田昭夫は主に営業系を担当した。
ホンダ 本田宗一郎は技術に専念し、経営全般を藤原武夫に任せた。

 

海外での有名どころは以下。

企業名 コメント
マイクロソフト ビル・ゲイツは、組織の代表と技術面を担当し、スティーブ・バルマーは経営全般を担当した。
アップル スティーブ・ジョブズは開発と製品発表を担当し、スティーブ・ウォズニアックは経営全般を担当した。
ディズニー 弟のウォルト・ディズニーは創造的な分野を得意とし、ロイ・ディズニーは財政面で会社を安定させた。
スターバックス ハワード・シュルツは経営全般を担い、オーソン・シミスに組織運営のすべてを任せた。
グーグル ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは共に優秀なエンジニアであるが、得意分野で補完し合った。

 

時代をさかのぼっても、国の経営に際しパートナーはいた。
項羽と劉邦の時代(紀元前206年~211年)、項羽には、亜父(あふ)と呼ばれた范増という参謀がいた。劉邦には、宰相の蕭何、軍師の張良、武将の韓信がいた。ところが、范増の進言を聞かなかった項羽は劉邦によって身を滅ぼされることとなった。

 

劉邦は皇帝就任時、「自分は張良・蕭何・韓信を使いこなせたが、項羽は范増ひとりすら上手く使いこなせなかった。これが項羽の滅亡した原因である」と言ったという。

 

三国時代(200年代)においては、魏の曹操には軍師であり武将であった司馬懿仲達、蜀の劉備には軍師の諸葛孔明と武将の関羽・張飛、孫権には武将の周瑜などが有名である。

 

日本の戦国時代(15世紀末~16世紀末)では参謀といわれる人たちがいた。徳川家康には本多正信、豊臣秀吉には竹中半兵衛と黒田官兵衛が有名どころである。ところが、織田信長はワンマンだったため参謀はいなかった。それが結果的に命を縮めることに繋がったと思われる。

経営チームに求められる人材

経営チームは、責任者の集団である。その人数は、企業規模にもよるが2~7名程度である。

 

トップマネジメントには、前述した様々な役割とそれをこなすためのいくつかの資質が必要である。チームのメンバーは、その内の一つ、またはあって二つ、三つの能力や資質を持った者でなければならない。そして、チームとして機能しなければならない。

 

ドラッカーの信奉者でかつ実践者のGEを再建したジャック・ウェルチも言っている。
「経営者として必要な資質は、種類として五つぐらいある。五つぐらいの資質がないと、トップマネジメントとしての使命は果たせない。しかし、実際は得意な分野は一つしかなく、多くて二つ、三つあればいいほうだ。だから、自分が持っていない部分を組み合さなければいけない」

 

その他に、基本的で重要な資質が一つだけあるという。それは“真摯さ”である。

 

真摯さを欠く人は、次のようなタイプだという。

  1. 人の強みよりも、弱みに目を向ける人
  2.   人の弱みに目を向ける人は、その人の能力を引き出せない。
      そして、生産性が上がらず、組織として成果をあげられない。

  3. 何が正しいかではなく、誰が正しいかに関心をもつ人
  4.   誰が正しいかに関心を持つ人は、間違った妥協をする。
      そして、保身に走り派閥を生むことに繋がる。

  5. 真摯さよりも頭のよさを重視する人
  6.   真摯さよりも頭のよさを重視する人は、組織を破壊する。

  7. 優秀な部下に脅威を感じる人
  8.   優秀な部下に脅威を感じる人は、自分の縮小コピーを作ってしまい、
      負のスパイラルとなり、その組織を死に追いやることに繋がる。

  9. 自らに高い基準を設定しない人
  10.   自らに高い基準を設定しない人は、誠実さに欠け、
      自らも組織も高い成果をあげられず発展しない。

  11. 実践ではなく評論家である人
  12.   実践できない人は、何一つ成果をあげられない。

経営チームのメンバーは、経営理念に従って同じものを目指す集団である。従って、経営メンバーは、真摯さと公共精神を発揮できる人格を備えていなければならない。そして、正しいことをはっきり言え、リスクと責任を取る人でなければならない。
単に才能があるから、あるいは実績があるからといった理由だけで選んではならない。そのような人たちを選ぶ企業文化ができてしまえば、やがてその会社は没落の道をたどることに繋がっていく。

 

経営チームのメンバーは、それぞれ経営理念やミッション、企業文化、及び成果や目標に真摯に向き合う人でなければならない。

経営チームを機能させるためのルール

経営チームの運営は、テニスやバトミントンのダブルス型に近い。固定的ではないが、基本的にはポジションでプレーする。

 

まず、企業規模に応じて必要な分野を決める。次に、それぞれの分野に、得意とする人材を充て、担当させる。そして、常に全社視点から見て担当分野のなすべきことをなす。したがって、彼らには実業を兼務させてはならない。

 

【経営チームを機能さるための条件】

  1. 経営チームのメンバーは、それぞれの担当分野において、最終的な決定権を持つ。
  2.   各メンバーの決定に対し、他のメンバーが異議を唱えてはならない。

  3. 経営チームのメンバーは、自らの担当以外の分野について意思決定してはならない。
  4.   そのような問題が来たら、直ちに担当メンバーに回さなければならない。

  5. 経営チームのメンバーは、仲良くする必要はない。
  6.   尊敬しあう必要もない。ただし、攻撃し合ってはならない。

  7. 経営チームは、委員会ではなく、チームである。
  8.   チームにはキャプテンがいる。それが、社長、CEOである。

  9. 経営チームのメンバーは、自らの担当分野では、自ら意思決定を行う。
  10.   ただし、問題の内容によっては、経営チームで検討しなければならない。

 

経営チームを作り、責任と権限を明確にする。その分野の様々なことは担当者が判断して、重要なことはチームで判断する。これをやらないと、社長一人では判断の空白が起こる。どこの会社でも起こっていることだが、判断しないまま先に行っている。

 

経営チームのメンバーは仲良くする必要はない。尊敬しあう必要もない。褒め合う必要もない。しかし会議では正面衝突をして、価値の対立をさせないといけない。会議の外では一切悪口を言わないようにする。これが経営チームを機能させるためのルールである。

 

委員会は多数決で物事を決めるためにやるやり方だが、経営チームは価値を対立させて新しい合意をつくるためにやるやり方である。

 

ソニーで盛田昭夫が副社長で田島道治(元宮内庁長官)が社長のころ意見の対立があり、田島が「盛田君、君と意見は違う、意見が対立する会社にはいたくない。今すぐ辞める」というと、盛田は「お言葉ですが、同じ考えなら同じ会社にいて給料をもらう必要はない。意見が対立しているから会社が保っていられる。どうかお怒りにならずに私の考えを検討してみてください」と言い返したという。

 

成果を生む意思決定は、対立意見による熟考の果てに生まれる。

 

どんな会社にしたいのか、徹底的に話しあわなければいけい。経営チームで内容を決定する以上、合意形成は必須である。経営チームのメンバーは、自分の考えをはっきり主張することを大いになさなければならない。協調とはお互いがお互いを尊重し、お互いの務めを生かし合うことであって、和のごまかしではない。腹が立つことを言うメンバーに対して賛同するか、しないかを決める前に、自分とは違う意見に対して真摯に耳を傾けることを自分の仕事にしなければ、チームは成り立たない。

 

経営チームが直面する問題は、満場一致で決められるようなものではない。意思決定に必要な良質な複数の選択肢を得て、その中から選び取ることが大事である。重要な意思決定にはリスクがつきものであり、意見の対立は出て当然である。

 

ドラッカー曰く、最初から全員が賛成ということは、誰も何も考えていないということを意味する。

経営チームが常に考えるべき5つのこと

経営チームが常に問い続け、考え続けなければならないことが5つある。

 

(1) 我々のミッションは何か
我が社はなぜ存在するのか、我が社は何を実現しようとしているのか。この簡単な問いが、継続と変革を可能にする。何を行うべきかとともに、何を行うべきではないかを教えてくれる。ミッションが不変だからこそ、変化に呼応して、戦略、戦術、プロセス、組織、方法を不断に変えていくことができる。
ここで大切なことは、お互いの考えの違いを浮き彫りにしないと、共通のベースはつくれない。事業の正体、売り上げ目標とかではなく、そもそものところの考えの違い浮き彫りにしないと共通文化はできない。すり合わせが必要である。 

 

(2) 我々の顧客は誰か
企業が成果をあげるには、活動対象としての顧客に焦点を絞らなくてはならない。そのためには、「我が社は、誰を満足させたとき成果をあげたといえるか」の問いに答えなければならない。その答えが顧客が誰かを教えてくれる。しかし、顧客は年とともに変わる。顧客のニーズも変わる。だから毎年合意が必要である。
例えば高級車レクサス…昔は亭主が決めた。今は家族会議で決まる。その時にレクサスがほしいというのはだいたい子供。購入の火種をつけるのは子供、最後に決定するのは奥さん、お金を出すのが亭主。顧客というのは、購入に対して影響力を与える全員のこと。お金を出す人だけではない。全員に対して別個のマーケティングをしなければならない。子供だったらどんな車が好きで、どんな風にお父さんに言うだろうか…奥さんは何が決め手で決定するか…亭主は家族がどう賛成したら金を出すか。これは知覚をしないとできないマーケティングである。顧客は単体であることはあり得ない。あるものを購入するのに複数の意見を聞く、その顧客総合体が顧客である。

 

(3)顧客の価値は何か
顧客は何をもって価値とするか、何が顧客のニーズ、欲求、期待を持たすかは、あまりにも複雑であり、顧客本人にしか答えられない。そして、これも変わる。しかし、答えを想像してなならない。必ず、直接顧客から答えを得なければならない。知覚によって答えを得なければならない。
ある美容院の例…当初、都会的なセンスを求めていると思った。しかし、電話アンケートをして聞いていったら、30代40代の主婦は実は、子育てしてパートもして家事もやっている。実は自由時間がない。そこで自由時間を充実させる価値、ときめた。短期間でここまで自分を変えてくれるという、短い自由時間を本当に充実したと思わせるような美容をして大きく流行った。

 

(4) 我々の成果は何か
顧客に価値あるものを提供することが企業の目的であり、顧客を満足させることが企業が成果とすべきものである。従って、単なる売り上げは成果ではない。成果というのは顧客に起こった変化である。顧客がどう変わったかが成果である。顧客の増加(非顧客から顧客へ)や顧客満足度の向上なども成果の一つである。
インターネットは、商品やサービスの販売促進に有効なだけではなく、自社の提供するものが、どのように見られ、使われ、求められ、評価されているかを教えてくれる。

 

(5) 我々の計画は何か
計画における五つの要素
・廃棄:成果に繋がらないものの廃棄
・集中:成果をあげているものの強化
・イノベーション:明日の成功のためのイノベーション
・リスク:リスクの評価
・分析:上記四つのための分析

 

これを常に経営チームで決める。

 

では、経営トップ(社長、CEO)は何をするか。経営チームのキャプテンを務める。キャプテンは、ボスではなくリーダーである。ボスは力ずくで自分に従わせるが、リーダーは理解と納得を得てより良い方向へ導く。

 

キャプテンは、経営チームの最終決定者である。よって、キャプテンは、決定権、あるいは拒否権をもつ。目標や予算などの承認権をもつ。

経営チームとマスター・マインド

ナポレオン・ヒル著「アンドリュー・カーネギーのビリオネア養成講座(CD付)」より、マスター・マインドについて紹介する。

 

本書は、人生に対してどんな目標や使命をもつ人にも役立つ、柔軟性をもつ「成功哲学」について述べられている。成功のための最初で最も重要な法則は、「明確な目標」の法則である。

 

「明確な目標」は、できる、できないではなく、“使命から出る大きな目標”のことである。これは、単なる望みではなく、“燃えるような願望(Burning Desire)”を意味する。

 

「明確は目標」を達成するための計画を立て、その計画を実行するには、他の人々を誘って協力を得ることが必要である。カーネギーは、他人の心の助けなしには、(月並みでない)大きな目標は達成できないと述べている。それが「マスター・マインド」だ。

 

マスター・マインドとは、ある明確な目標を達成するために、知識や脳力を結集し、完全な調和をもって働く、二人以上からなる協力者グループ」のこと。二人以上の心が、明確な目標を目指して「調和の精神」をもって一緒に働けば、「普遍的な心(第三の心)」という大きな力を持つことになる。

 

この世には、一つだけで完全な心はない。最高の心の豊かさは、二つ以上の心が調和的な関係をつくり、明確な目標の達成を目指して働くときに生まれる。

 

マスター・マインドから最大限の知恵を得られるように、調和の精神をもって、各メンバーと深く理解し合わなければならない。マスター・マインドのすべてのメンバーが心から目標達成に賛同し、互いに協調することが大切である。

 

マスター・マインドのグループを組織するにあたって、リーダー(キャプテン)がメンバーを選ぶ時の条件は、第一にそのグループの中で必要とされる能力を備えていること。そして第二は、特定の報酬という形で動機を提供すれば、間違いなく協調性をもってグループのために働いてくれる人物だるということである。

 

また、メンバーとして必要な資質が一つある。それは、自分自身と仕事仲間に対するその人の「心構え」だという。普遍的な第三の心を形成するには、協調性のある「積極的な心構え」が必要とされる。

 

ドラッカーの「経営チーム」とカーネギーの「マスター・マインド」の違いは何か。
経営チームは、どちらかというと「利益共同体」に近い。これに対して、マスター・マインドは、「精神共同体」といえる。

 

これの例としては、三国志の「桃園の誓い」がある。志に向かって、皆で誓う。生まれるときは別々でも、同年同日に死ぬ。

 

ソニーの、天才発明家である井深大と天才的な営業マンである盛田昭夫もこれに近い。