利益をあげることの意義

利益に対するドラッカーの有名な言葉がある。
「企業人の代わりに私欲のない天使が役員の椅子に座っても、利益については関心を持たざるを得ない。いかなる事業においても、問題は経済活動に伴うリスクをカバーし、赤字を出さないために必要な利益を上げることだからである。」(『現代の経営』)

 

だからといって、単純に「企業の目的は最少の投資で最大の利益をあげることだ」と今でも真顔で説いている経営幹部がいるとしたら、そのような企業は今後も不祥事を起こすことが避けられない。なぜなら、どうしても利益(数値)に目がいき、顧客を軽視した「利潤追求」に陥りやすいからである。

 

利益は、企業の存続にとって大切なものではあるが、単なる「利潤追求」は、その企業そのものを破滅に追いやってしまう。

 

因みに、京セラ創業者の稲盛和夫氏は、「売上を極大に、経費を極小に」と言い、そして、「利益とは、その差であって、結果として出てくるものにすぎない」と言っています。そして、「経費を極小に」とは、材料費以外の経費をいかに抑えるかを追求しており、単純な「利潤追求」ではありません。

 

また、トヨタ自動車創業者である豊田喜一郎の「一本のピンもその働きは国家に繋がる。各自の業務に無駄あるべからず」という言葉がある。その精神が受け継がれて「乾いたタオルを絞る」と言われる合理化(改善、コストダウン)精神として受け継がれているものと思われる。これも、単純な「利潤追求」のためではありません。

 

豊田喜一郎、稲盛和夫の両氏とも、「無駄の排除」や「企業の体質強化」を重視しての発言であり、その結果としての「利益」と捉えている。

 

また逆に、税金を払いたくないので赤字計上する企業も少なからずあると聞く。これでは、将来のリスクに耐えられないし、発展も望めない。そもそも「企業は公器であり、利益による税金の納付は社会的義務である」との自覚がない。

 

前出の京セラ創業者の稲盛和夫氏は、「税金は、会社の経費だと考えることだ」と言いきってます。また、「税金は、社会貢献のための必要経費と考え、税引き後の利益のみが、自分たちに与えられた利益だと考えるのです。そして、税引き後利益を大切にすることで、内部留保を蓄え、自己資本比率を高め企業の財務体質を強化する唯一の方法なのです」と述べている。

 

利益は、その事業を存続させるために必要なコストをまかなうためにある。つまり、その事業の将来のリスクをカバーするために必要な金額を利益を上げて蓄積(内部留保)しておく必要がある。また、企業が利益をあげるのは社会に対する責任を果たすためでもある。

 

目先の利益を上げるだけならば、弱い立場にある仕入先の買値をたたき、グループ企業や取引先に押し込み販売をして販売経費を絞り、社員の首を切って人件費を下げればよい。しかし、そんなことが長続きするわけがない。

 

トヨタのトップは、「人の首を切って利益を出すことが通用するなら経営者はいらない」とまで言い切っている。「人間に生き甲斐のある環境を作ることが本来の経営の目的であるはずだ」という信念を、愚直に実行しているから人材が育ち業績も高いのである。

 

いかなる事業においても、必要なことは、経済活動に伴うリスクをカバーし、赤字に陥らないために必要な利益をあげることである。企業にとっての利益とは、事業存続のための条件であり、コストである。

 

そして、企業の第一の責任は、存続し続けることにある。従って、企業の経済学としての指導原理は、利益の最大化ではなく、損失の回避である。企業は、事業に伴うリスクに備えるために余剰を生み出さなければならない。それが利益である。

 

利益の基準をどう見るか。
ドラッカー曰く、それは、マーケティングとイノベーションと生産性に関わる仕事ぶりの結果であり、仕事ぶりを判定するための尺度である。事業活動の唯一の評価基準である。

 

一方、企業とは何か…実は、個人の所有物ではない。社会によって生かされている存在である。会社は公器である。ゆえに社会的義務がある。

 

その義務の第一は黒字化ということ。第一にして最大の責任である。ただ、義務ではあるが目的ではない。企業の目的は顧客の創造である。利益は企業の社会に向けては義務、内に向けては企業存続の条件である。これが利益の位置づけである。

 

ビジネスの基本は「お客様に喜ばれるもの(価値)を供給して自分も儲ける(利益をあげる)こと」である。また、利益は内部にはなく、外部にいるお客以外からは得られないということを悟らねばならない。そのためには、お客様に満足を与えなければならない。

 

松下幸之助は、利益についてこのように言っている。
「利益は、企業が世の中に貢献した報酬である」

利益の4つの意義

利益には、以下に示すとおり、大きく四つの意義がある。

 

1点目は、利益は事業存続のためのコストである。
利益がなければ会社は存続できない。今期あげた利益が来期のコストになる。目的よりも条件の方が厳しい。条件は達成しなければ倒産する。ゆえに条件は厳しく追及しなければならない。

 

2点目は、利益はお客様や社会から頂く評価の基準である。
お客様が満足してお金を支払う。利益は、お客様が満足した証拠であり、貢献をしたという評価基準でもある。ただしマーケティングに成功しているという前提であり、ただ売りさえすればいいというのではダメである。お客様満足、その集合体としての社会への貢献である。このプロセスを経ないで利益だけ取るのは、公器ではない。この公器性の認識の無さが最終的には衰退の道に入っていく。

 

3点目は、利益は資本主義と社会主義を分ける指標である。
お客様を満足し続けて社会に貢献し続けるのは非常に厳しい。容易に倒産するが、マクロで見れば、これが社会の発展を担保している。ダメ会社は社会から消えていく。これが資本主義のいい所である。社会を進化させる仕組みでもある。よい企業、ダメ企業のメルクマール(一定の内容を表す印となるもの)が利益である。

 

これに反して社会主義には利益条件がない。政府が命令したらそれをやる。害悪を流し続ける会社、国民を疲弊させるシステム、社会を破たんさせるような企業、いっぱい出ても、利益条件がないから政府が辞めろというまで延々と続く。これが計画経済である。

 

4点目は、利益は社会の経済的発展の中心的な機能を果たしている。
社会の発展とは何か。100年前と比べて今は労働時間ははるかに短い。労働条件は、はるかに楽になっている。しかし、今の方が裕福である。なぜか?この100年間で企業が社会に設備投資をしたから。さらに利益に基づく税金を収めて、政府がインフラ投資をしたからである。このように、民間企業の黒字に基づいた設備投資、これによって社会が発展して楽になった。すなわち「企業の利益は社会に還元されるべきものであり、社会全体を豊かにするものである」ということである。

 

利益とは社会に関わるものである。利益をあげるのは個人の好き嫌いの問題ではなくて、社会的責任であるということ。利益はそれだけ社会的機能を持っている。

 

利益の意義の、1点目は、利益は企業存続のコストであり、企業が社会的使命を果たすための存続条件である。公器性に関わる。2点目は、社会貢献の証明としての利益である。3点目は、利益というのは資本主義と社会主義を分ける指標であり、社会の進化を促す。利益を上げた会社は残り、上げない会社は潰れる。社会進化のメルクマール。4点目は、利益は国家や社会の経済的発展の中心的役割を果たしているということである。

利益モデル

利益をあげるには、それなりの戦略が必要である。
松下は適正利益で成長した。ダイエーはディスカウントで価格破壊をした。薄利を求めていった。

 

(1) 経費+適正利益=価格
松下電器創業者の松下幸之助氏…昭和初期のまだコストカットの技術や理論がない時代の考え方である。製品を造るには一定の必要な経費がある。それに会社の都合で決めた適正利益を載せる。モノ不足の時代なので、価格に対してマーケットは厳しくなかった。昭和30年代のカラーテレビが30万円台。今は2~4万円で売っている。

 

(2) 価格-経費=利益
ダイエー創業者の中内功氏…アメリカ型ディスカウント理論である。大型店舗で大量販売。大量仕入れで、仕入れコストが下げ、価格を下げる。平成不況に入って、世間の価格に対する目が厳しくなった90年代以降の流れ。低価格にするには経費を抑える。いかにして経費をコントロールするか…松下がコントロールしたのは利益(適正利益)…価格が抑えられるので経費をコントロールする。結果として利益が出る(結果利益)。中内理論が現在まで続いている。どこも商品が似ているので価格競争に陥る。

 

(3) 価格-利益=経費
京セラ創業者の稲盛和夫氏…今でいうところのプロフィットファーストの考え方である。価格設定の後、利益を確保するためにいかに経費をコントロールするか。人件費は上がる、エネルギー価格は下がらない、消費税は上がる。経費は上がる一方である。利益が出るか出ないか、相当不安定な状況の中、利益確保ためにいかに経費を抑えるかがカギとなる。

 

(2)と(3)は何が違うのか。
(2)の「価格-経費=利益」は、「経費を抑えてどれだけ利益を出せるか」という考え方であり、(3)の「価格-利益=経費」は、「利益を確保するためにどれだけの経費でなければならないか」という考え方(プロフィットファースト)である。これが今では企業を倒産させないやり方に変わりつつある。

 

コントロールすべきは利益ではあるが、松下の時代とは違う。なぜなら、定価が抑えられているから。定価が抑えられている時代に利益をコントロールする。これが倒産しないビジネスモデルである。利幅が大きければいいが、少なくとも大事なのは利益が出ることの安定性。安定的にこの商品、事業部からは利益が出るというやり方が求められる。

 

松下の時代は利幅の安定性が事業の競争力であった。ダイエーは価格が競争力であった。最近の理論は利益の安定性が競争力である。定価は決まっている。利益をコントロールするために工夫に工夫を凝らして堅固な利益を生む。経費を削る。この利益を出すために経費をこれだけ削るという考え方である。

 

どうやるか…まず、「お客様は誰か」という顧客の選定から始める。顧客を絞る、ニッチで絞る。例えば、給料が何万で子供が何人にいて姑がいない主婦など。顧客対象を絞ることで余計な経費を削る。

 

ブックオフでは、本をたくさん売る人が顧客としている。買う人ではなく、本をたくさん持っている人の本棚の流動性を上げるというコンセプト。

 

俺のフレンチでは、銀座に繰り出すサラリーマンとOLを対象。多少お金があり、贅沢をすることに違和感を感じない層で、週に一回食べる。

 

更に、利益を安定させるための工夫として、シンプル化がある。
ブックオフでは、「月に何冊仕入れるか」だけの目標で、仕入れ高だけ。例えば、月々3万冊仕入れる。これなら全員やれる。売る人は高く売りたいので、キレイな本、3年前までのベストセラー、ちょっと前のベストセラーなら売れるとわかってきた。売ることを目標にするとお客さんに裁量権がある。仕入れは、一般の客さんのところに行ったら必ず売ってくれる。販売はコントロールできないが、仕入れはコントロールできる。楽々目標達成する。行動をシンプル化させて、これで利益が出るという方向に煮詰めていく。

 

俺のフレンチでは、「日計で2000万、一日4回転の目標」、回転数だけの目標にした。足らなくなりそうなら店の外に出て引き込む。これなら誰でもできる。目標をシンプル化して従業員の誰でもできる目標を掲げて達成させる。皆が目標を追いかける。利益が安定する。

 

スカイマークも、統一モデルで、一円でも安くなる方向で連日社員に協議をさせる。パイロットから社内係員までも意見が出る。一円でも安くオペレーションする。全員参加型で利益に貢献させる。

 

利益を削って競争力をあげるという発想ではない。世間ではまだ価格をどう下げるかでの戦い…利益の安定性こそが事業の競争力をあげる。

これは、京セラ創業者の稲盛和夫氏の言葉です。